ここやすらぎ館・占いの館いつものメンバーが集まっていた。

　「マスターいる？」
と、阿知田さんが飛び込んできた。
　いつもの焙煎に余念がないマスターが、
　「阿知田さん、まだ仕事中じゃないんですか？」
　助手のＫも、
　「この間お嬢さんにお会いしましたよ。茜ちゃん綺麗になりましたよね」
　阿知田さんがお冷を一気に飲み干すと、
　「Ｋちゃん、それなんだよ。うちの茜、この間占いに来たろ、何か言ってなかった？」
　「おやおや、アイビスサマーダッシュの話かと思ったら、娘さんの話かい」
　「マスター、珈琲くれよ、それでね、お宅の双子の娘はどうなの？こっちの方、いい感じ？」
　「茜ちゃんより３つぐらい上だったかな、適当にやってると思うよ」
　助手のＫが、
「ったく、マスター、ひとの親とは思えません。お嬢さんたちも仕事がんばってるんですからね」
　「いや、いまは男のことで頭いっぱいじゃないの？俺の娘だからモテると思うよ」
　「のんきなんですね、マスター」
　阿知田さんがいらいらしながら、
「そこのところなんだよ、占いでさ、何か、オトコのこと言ってなかった？」
すかさず助手のＫが、
「個人情報は秘密厳守です。たとえ、親御さんでも言えません」
マスターも、
「コンプライアンスなんちゃらだね」
　「そりゃどうでもいいんだけど、結婚するって言いだしたんだよ。まだ早いだろ、俺、おじいちゃんになっちゃうよ、マスター」
　珈琲を差し出しながら、
　「そりゃ今週はね、ライオンボスで固いんだよね。カイザーメランジュ、アンフィトルテなんて狙ってみますか？」
　珈琲を啜りながら阿知田さんが、
「ダイメイプリンス、レジーナフォルテ、ミキノドラマー、ラブカンプーも気になるね」
　「でしょ、アイビスサマーダッシュ考えてから茜ちゃんのこと、考えましょうよ」
とＫ。
　「ダメダメ、ラインスピリット、カッパパッチ、レッドラウダもありだな。乗り替わりはだめだよ」
呑気なマスターが、
　「アカネサス、今度いつ走るのかな？楽しみだな」
　「ひとの娘で遊ばないでよ～。ビップライブリーが出るのも気になるな」
Ｋが、
　「気になる馬のオンパレードね。調教や血統だけじゃ不安だし、やっぱりアカネサスから買おうかな」
　昼前の初夏に戻ったやすらぎ館・占いの館では、日本海上空の不穏な雲行きはあまり話題にならず、専らアイビスサマーダッシュの穴馬の花が咲き誇るのでした。